認知症とは
認知症は、いったん獲得された認知機能が何らかの原因で障害され日常生活がうまく行えなくなる状態です。
その認知機能には注意、記憶、実行機能、視空間認識能力、言語など様々なものが含まれていますが、認知症の症状としては記憶、見当識(自分の置かれている状況の認識。時、場所、人の認識)、実行機能が障害されることが多くこれらを認知症の中核症状といいます。
また認知機能の障害以外にも妄想や幻覚、徘徊、易刺激性、暴言・暴力、異食行動、不潔行為、性的問題行動などの困った症状を示すことがあり、それらは認知症の周辺症状(あるいは認知症の行動・心理症状
BPSD: Behavioral and Psychological Symptoms of
Dementia)といいます。実際にはご本人と介護されているご家族をもっとも悩ましているのは中核症状よりもBPSDであることが多いです。
認知症の原因
認知症の原因はよく知られているアルツハイマー型認知症だけでなく多岐にわたります。特に強調しておきたいことはアルツハイマー型認知症のように進行をどうやって抑えるかが治療の目的となる疾患だけでなく積極的に治療することによって症状の改善が期待できる疾患(治療できる認知症 Treatable dementia)があることです。
当院の開設後まだ4年ですが物忘れや認知症を心配してこられた患者さんで脳腫瘍、脳梗塞、正常圧水頭症、甲状腺機能低下症、ビタミン欠乏症、高血糖などによる認知機能障害と診断して原疾患の治療につなげた患者さんがまれならずおられます。脳腫瘍、正常圧水頭症の患者さんは近隣の病院で手術していただき、その他の患者さんは当院で薬物治療により症状の改善を確認しています。このように認知症の診断において治療により症状の改善が期待できるTreatable dementiaを見つけることが最も重要です。
認知症の検査
当院ではまず認知症状と局所神経症状の程度を調べるため問診と神経学的診察および簡単な認知機能検査を行っています。そしてTreatable dementiaを見つけるために頭部MRI検査と血液検査を行っています。血液検査は外注でその提出のため夕方の診察では行えませんのでご注意ください。またかかりつけの内科がある場合は定期的に検査されていると思いますので血液検査は省略することがあります。
当院のMRI検査は1.5テスラのMRIですのでVSRADというソフトが使用でき、アルツハイマー型認知症にみられる海馬の萎縮や脳全体の萎縮も定量的に判断することができます。初診時はもちろん認知症の進行の程度の判断のため経過観察のためにも利用しています。
アルツハイマー型認知症の治療
上述の通り認知症は様々な病因から生じる症候群ですので各々の病因により治療法は異なりますが今回は最も頻度の高いアルツハイマー型認知症の治療につき説明します。
認知症の予防並びに治療で我々が最も重要であると考えていることは患者さんの社会性を保つということです。具体的にはお友達と頻繁に会っておしゃべりする。時には一緒に旅行したりする。同じ趣味の人と定期的に会って楽しむ(昔は碁会所とか雀荘とかありましたね)。できるだけ頻繁に楽しいことをするのが大事だと考えています。毎日することもなくテレビばかり見ている生活はとてもよくありません。ネットサーフィンも危険がいっぱいでおすすめできません。人と会話することが大事です。ただ一人暮らしで以前は近所の友達と遊んでいたがみんな死んでしまって今は友達がいなくなった。という声もよく聞きます。今はデイサービスなどの利用を考えられるのも一つかと思います。またご家族だけの力で介護を頑張れるのは素晴らしいと思いますが公共の力を借りられるのもいいと思います。ご家族だけで頑張られると介護する誰かが犠牲になって苦しい思いをされる人が出てきます。ですので早い段階から介護保険の申請をすることをお勧めしています。認知症の方のお世話にはご家族だけではなく昔の村社会ではないですが地域で手助けする方向で考えられています。
アルツハイマー型認知症の内服薬物治療
1.内服薬;コリンエステラーゼ阻害薬
アルツハイマー型認知症のお薬の治療としてはドネペジル(アリセプトⓇ)、ガランタミン(レミニールⓇ)、リバスチグミン(リバスタッチⓇ、イクセロンⓇ)などのアセチルコリンを分解するコリンエステラーゼを阻害する薬がまず用いられます。アルツハイマー型認知症では前脳基底部のアセチルコリン作動性ニューロンが減少し認知機能低下の一因となることからアセチルコリンの分解を抑制しアセチルコリンを増やすことにより認知症の進行を抑えることを目的としています。ドネペジルはレビー小体型認知症の幻視の消失に有効であるとのデータもあります。副作用として吐き気、下痢、食思不振、胃痛などがありますので最初は少量から開始します。またアセチルコリンは副交感神経の神経伝達物質ですので副交感神経の賦活により徐脈や低血圧が起こることがあります。また私の使用経験ではまれにBPSD症状の悪化を見ることもあります。
2.内服薬;NMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬=メマンチン(メマリーⓇ)
NMDA受容体は学習や記憶にかかわりアルツハイマー型認知症ではNMDA受容体の過剰興奮から神経障害が起こる可能性が想定されているためその過剰興奮をメマンチンが抑えることで効果を発揮すると期待されている。当院の使用経験では易刺激性や暴言・暴行などのBPSD症状を示す患者さんに有効なことがあるように思います。
3.内服薬;その他
認知症患者さんを日々介護されているご家族さんにとって患者さんの易刺激性や興奮、暴言・暴行などのBPSDはとてもつらいことです。あまりにひどい症状の時には精神科受診が必要ですがそれほどではない場合には当院では漢方薬(抑肝散や抑肝散陳皮半夏)や抗精神病薬(リスパダール、クエチアピン、レキサルティⓇなど)を試みることがあります。
アルツハイマー型認知症の点滴薬物治療=抗アミロイドβ抗体療法
ご存じの方も多いと思いますが最近画期的なアルツハイマー型認知症の治療薬が発売されました。
以前からアルツハイマー病の患者さんの脳にはアミロイドβタンパク質(以下Aβ)とタウタンパク質(以下タウ)が蓄積しそれぞれ老人斑と神経原線維変化として病理学的に顕微鏡で確認されることは知られていました。現在アルツハイマー型認知症の発症機序としてAβが凝集して形成されつ細胞外Aβ凝集体が毒性を持ち、神経細胞内にタウの凝集を誘発し神経細胞死を引き起こすという説が有力です。
Aβの凝集は認知症発症の20年も前から始まっていることが分かっており以前からこのAβの脳内からの除去により認知症進行の抑制ができないか考えられてきました。
この度、Aβを脳内から除去し認知症進行を抑制できた抗Aβ抗体薬=レカネマブ(レケンビⓇ)とドナネマブ(ケサンラⓇ)が発売されました。レカネマブは2週に1回、ドナネマブは4週に1回1時間ほどの点滴治療を1年から1年半継続します。ともに投与初期は副反応が見られることが多いですので地域の中核病院が抗Aβ抗体療法初回導入施設となっており、当院では適応が考えられ希望される患者さんには積極的に紹介しています。
また全国的に抗Aβ抗体療法導入施設が少ないためその治療のキャパシティを超え新規の治療を断る施設が続発したため抗Aβ抗体療法初回導入後6か月を経過した患者さんは導入施設と密な連絡のあるフォローアップ施設での投与・経過観察が可能となりました。
当院ではドナネマブ(ケサンラⓇ)のフォローアップ投与を行っています。当院でドナネマブ(ケサンラⓇ)のフォローアップ投与を行った患者さんでは1年の投与で脳内のAβの除去が確認されています。
このように認知症患者さんにとって素晴らしい希望の光の治療ですが適応となる患者さんには様々な制限があります。
- 症状が軽度認知障害(認知症ではないが正常とも言えないグレーゾーンの認知機能障害)と軽度認知症の患者さんであること。
- 抗Aβ抗体治療時にARIAと呼ばれる頭蓋内出血や脳浮腫などの副反応が見られるため、それを判断するため定期的にMRI検査を施行できること。
- 投与前のMRIで 5個以上の微小出血あるいは脳表ヘモシデリン沈着あるいは 1cmを超える脳出血のないこと。
- アミロイドPETで脳内Aβの蓄積が見られる、もしくは髄液のアミロイドβ42/40が0.067以下
以上の適応条件のうち当院では①から③の検査が可能です。当院では①から③の検査で適応判断し抗Aβ抗体療法初回導入施設へ紹介しています。
最後に一つだけ問題点を。抗Aβ抗体薬は非常に高価です。レカネマブ(レケンビⓇ)の薬価は体重50kgの患者さんでひと月194,554円、ドナネマブ(ケサンラⓇ)は267,792円です。もちろん健康保険が使え1から3割の自己負担ですが高額療養費制度も使えますのでそれぞれの方の負担割合の上限を調べて把握されたほうがいいと思います。
以上当院では現在の高齢化社会の中心的な問題と考えられる認知症について患者さんとご家族に少しでもお力になれることを考えています。ちょっとした心配ごと、ご疑問でも構いませんのでお気楽にご相談ください。